ガーゼ

大人になっても少女で痛いの

罰ゲームなんかじゃないよ。

指で喉を押さえての嘔吐ではなく、自らの腹を殴って嘔吐していたらしいと知ったのは二十歳過ぎくらいに仲の良かったバンマンから聞いた話だ。

わたしは二十二歳よりも前の記憶が曖昧でうまく思い出すことができない。

当時通っていた病院の帰り道にしょっちゅう彼の家に寄って眠った。摂食障害で30キロ迄落ちたわたしはそれ以上に痩せなければという強迫観念で食事を全て戻していた。口にするものもカロリーの低いものばかり。低いのに戻すのだ。消化器が吸収してしまうことがこわい。終わりの無い飢えに発狂しそうになりながら。今のように情報も乏しく嘔吐のやり方も野蛮だったのだろう。腹を殴れば吐けると思ったのだろう。風呂場で腹を殴って洩らす呼吸を彼は聞いてきたのだろう。わたしを助けたいとでも思ったのだろう。わたしは彼に怒られる事は一度もなかった。すぐにいろんな所に飛び回ってしまうわたしをなだめて慰めた。

二十二歳の時、閉鎖病棟保護室で医者に「あなたは要らない。必要ない。」と繰り返され、わたしはわたしがわからなくなってしまった。

網目の先の空を見ては衝動に任せて歌を歌った。当時の友人が言ってくれた言葉を覚えている。

「人生は罰ゲームなんかじゃないよ。その歌声がヱイちゃんにはあるもの。」