ガーゼ

大人になっても少女で痛いの

「笑ってください。」と悲しそうに呟いた。

特殊な記憶だった。それが恋愛であったのか違うものであったのかわからない。発作に苦しむわたしに、あの子は一心に祝詞を唱えていた。呪いを掛けられた。

神道の彼と出会ったのはやはりインターネットで、当時わたしが作っていたホームページ上の掲示板だったと思う。やりとりがあって、後に初詣でもどうかとわたしの方から強引に誘い出した。正月の靖国神社は昭和のエログロナンセンス的な空気感が漂って興味深い。なんといえばいいのか、丸尾末広的であるのか。お詣りをしたときに彼は「なんて罰当たりな。ちゃんとお詣りをしなきゃあ駄目ですよ君。」と、わたしの適当な詣り方を叱った。初対面だったけれど、わたしもそれに突っ掛からずに「あっ、あっ、ご免なさい。」と教えてもらった通りにやった。

彼は活字中毒のアル中だったから、ほとんどビールとほんのすこしだけのアテだけつまんで頼む料理をわたしに食え食えと言った。わたしも当時はやせっぽちだったもんであまり量が食べられなかったのだけれども。

彼が一番に気にしていたのがわたしの病気のことであった。

発作の時間、彼は祝詞を唱えていた。信じられないけれども。バカじゃないかと思ったけれども。

「笑ってください。

悲しそうに彼は呟いた。

はーはーと荒い呼吸の中で、わたしはけっこう嬉しかった。彼なりだけども真剣に病気に向き合ってくれていると。

 

わたしたちは会わなくなったけれども彼の「貴女の才能が好きですよ。」という言葉を覚えている。